


第二回目の企業取材は、創業480年以上の高級和菓子専門店「とらや」にお願いしました。東京赤坂にある本社で取材に応じてくださったのは、広報からは安藤取締役、渡辺部長。そして営業担当の乙間取締役でした。
<虎屋はLOHASなのか、LOHASが虎屋なのか>
話は少し遡りますが、5年ほど前に私は虎屋の黒川社長のお話を伺う機会がありました。ちょうど、六本木ヒルズを中心とした六本木6丁目の開発「66プロジェクト」が始まった頃であり、虎屋もヒルズの中にカフェを出すことが決まっていました。そして、その時に社長がおっしゃった「スローフードとしての虎屋のカフェ」というお話の中で、私は始めて「スローフード」という言葉を知りました。その年は日本における「イタリア年」で、イタリアで始まったスローフード運動は各地のイベントで取り入れられ始めてはいましたが、まだまだ多くの人には知られていなかったように思います。そんな早くからスローフードを視野に入れていた虎屋でしたから、私が「LOHAS」という言葉を知ったときすぐに頭に浮かんだのも虎屋だったのです。
取材にあたって、雑誌「ソトコト」が提示した「LOHAS度チェック」で見ても、 虎屋はLOHASの定義に当てはまることが実に多くあります。
「やはり虎屋はLOHASだ」と確信をもって臨んだ取材。始まってすぐに渡辺部長が口にされたのは、
「虎屋はLOHASを意識して実践したことはありません」というものでした。
「あとから聞けば、そういえばLOHASの枠内に入っているなぁ、という感じですが、もともとLOHASという言葉が生まれる前から虎屋は同じことをしていますから」
言われてみれば納得です。もともと続けてきたことが外部の人によって「LOHAS」として定義され始めただけで、虎屋自身がそれに当てはまるように何かを努力したわけではないのです。ということは、虎屋が「LOHAS的」なのではなく、LOHASが理想とする企業体が「虎屋」といえるのではないでしょうか。
<極上の原料を求めて>
では、虎屋はどうやってLOHASが理想とすることを継続してきたのでしょうか。
まずは、美味しい和菓子の基本となる原料に注目したいと思います。
「普通の会社は材料が無くなったら違う材料を探すけれど、 虎屋の場合は、無くなったら困るから、それをどうやって残すかを考えるんです」
虎屋はそのために、いくつかの契約農場を持っているとのことです。群馬・茨城の白小豆、北海道の小豆、徳島の和三盆糖、長野や岐阜の寒天。どれも昔ながらの製法だったり、 栽培が難しいものには常に研究を続けたりしているそうです。こういった原料に対する厳しさは、多くの企業がコストを下げるために安い原材料を輸入したり、 または合成着色料などの化学的なものを使ったりする中、虎屋の場合は全く逆の発想といえるのではないでしょうか。
「そもそも昔は国産のものしか材料が無かったわけですが、 しかし、そのおかげで技術が磨かれ、今の時代で言う『トレーサビリティ(*)』 もほとんどが国内産であるからこそできるわけです」
さらに、その極上の材料を本当に美味しい和菓子にするために、 虎屋では20年以上前から農場研修を行っているのだそうです。
「どうやって材料ができるかを知ることよりも、 どういう気持ちで作っているかを見てきてほしいんです」
丁寧に作ってくださった人たちの心を無駄にしないように、 材料を大事に使って美味しい和菓子をつくる、その心が大切なのだといいます。
*主に品質マネジメントシステムにおいて使用される定義。 ISO9000:2000においては「考慮の対象となっているものの履歴、適用又は所在を適用できること」と定義されており、具体的には「処理の履歴」「材料及び部品の源」などが挙げられています。
<人を育てる>
お話の中で、虎屋は「人を育てる」ということに関しても特に積極的だという印象を受けました。農場研修の他にも虎屋には研修が多く、人事部によるものや部署ごとに行われるもの、書道研修や営業職の製造研修のように、自主的に参加する研修も多いように思いました。「社内のモチベーションがとても高いのですね。どうやってそれを維持なさっているのですか?」と伺ったところ、それは社長が「人を育てるために機会を与えてあげる」ことを大切にされているとのことです。 今までにも「姫たちの雛まつりプロジェクト」や「TORAYA CAFE」発足のプロジェクトに若い人材を抜擢するなど、チャンスを与えて人を育てるということに積極的に取り組んでいらっしゃっています。
「人と人とのコミュニケーションが無いと、商売としても成り立たないんですよね」
こういった個人の成長が虎屋全体の繁栄にも繋がっているのでしょう。
<コストを最優先しない>
虎屋には和菓子の歴史・文化を研究し、後世に伝えるために設立された部署 「虎屋文庫」があり、 和菓子についての学術論文を中心とした機関誌『和菓子』を年に1回発行したり、年に2回ほど、所蔵資料をもとにした和菓子関連の展示を行ったりしています。
「古文書や史料を多く所持していますし、和菓子のリーディングカンパニーとして、 和菓子の文化を後世に伝えるのは虎屋の使命なんです」
こうしたコストを最優先しない活動も、実は虎屋の文化面でのファンを得ることになり、 また、展示を見た後に菓寮に寄ってくださったりすることも多く、結果的に虎屋の和菓子の美味しさを知ることに繋がっているのだそうです。 かくいう私も虎屋のファンになったのは、 虎屋文庫の中山圭子さん著『和菓子ものがたり』を 読んだのがきっかけでした。「和菓子を美味しいと思うことは誰でも出来るが、知識があればもっと美味しく味わえる」、それを教えてくれたのが虎屋文庫です。
<これからの虎屋>
取材の最後に、「虎屋が危惧していることはありますか?」と質問をしてみました。
「贈答文化の衰退でしょうか。昔はもっと家族が大きくて、 両親や祖父母から年中行事や人生の節目、それぞれにあった和菓子や贈答を自然と教わってきました。今はそういったことが無くなりつつあることが、一番心配です。また、批判ではありませんが、百貨店などのお中元やお歳暮商戦が年々早くなっていますよね。お中元なんて今や5月くらいから売り出すでしょう、本来の時期がずれてしまっているんですよね。 日本人として、もっと節目を大切にしていただきたいという思いがあります」
確かに、節句などの年中行事や、お祝いで和菓子を食べる機会が多くあったのに、 それがどんどん無くなっている。バレンタインやクリスマスといった、外来のイベントのほうが重要視されてしまうのは、とても悲しいことだと思います。
「家族の代わりに、虎屋が伝えていく存在になれたらと思います。 進物様式のご案内やご提案はもちろんのこと、年中行事などもこちらからお知らせしていきたいと考えています」
「また、虎屋は2003年から「虎屋 WAGASHI ・HAUTE COUTURE」(オートクチュール*) を始めました。 お客様からご要望を一からお伺いして、用途や素材、菓銘にいたるまでを一緒に話し合ってその方だけのオリジナルのお菓子を作り上げる、 という高級和菓子専門店の原点に戻るものです」
お客様一人一人とのキャッチボールを大切にすることで、お客様にとっても大切な和菓子を作り上げる姿勢は、 きっと和菓子の更なる発展にも繋がっていくはずです。
*虎屋 WAGASHI・HAUTE COUTURE・・・赤坂店にて受注
<取材後記>
虎屋は「変えるべきこと」と「変えてはいけないこと」がしっかり理解されている企業だなと感じました。「伝統とは革新の連続である」という信念は、虎屋を一番よく表していると思います。 時に老舗というイメージからは考えられないほど柔軟な虎屋。しかしながら「高級和菓子専門店」としてこだわる覇気を持っています。 伝統を守り続ける老舗であり新しいものに挑戦していく企業でもあります。その古いものと新しいものが上手く調和されているところが、 虎屋の所以ともいえるのではないでしょうか。そして、 それが外から見るとLOHASに繋がっている理由なのかもしれません。
最後にお忙しい中午前中一杯お時間を頂いたにもかかわらず、大変ご丁寧なご対応と美味しい生菓子「霜紅梅」、そしてお土産までいただき、本当にありがとうございました。 帰り道までも笑顔になってしまう有意義な時間でした。
リンク
株式会社虎屋 ・・・ http://www.toraya-group.co.jp/
TORAYA CAFE ・・・ http://www.toraya-cafe.co.jp/
■取材した人:金沢玲美、犬飼俊介
■取材された人:乙間博氏、安藤登志子氏、渡辺昌高氏
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