
「より良い酒を追求し、豊かなくらしを創造する」菊水酒造株式会社
日本酒が好きな人もそうではない人も、設計・施工段階から手掛けた有機空間を持つ蔵(工場)として日本で最初の認証を受けるという偉業を成し得た創業125年・菊水酒造さんの"こだわりと信念"を知っておいて損はありません、というか是非知って欲しい!という思いで新幹線に乗って新潟まで取材に伺いました。
会社外観 |
日本酒文化研究所外観 |
高澤社長と上原さん |
| ■菊水日本酒文化研究所ってなんですか? |
今回の取材は新潟県・新発田市(しばた市)の老舗・菊水酒造さんが2005年4月からオープンさせた「菊水日本酒文化研究所」を見せて頂きたいのですが・・・、というお願いから実現致しました。
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月のエコプロダクツ展においてのセミナーで、高澤社長のプレゼンテーションの時間が短く「現物をどうしても見てみたい」という思いに駆られるほど、その込
められた思いと信念に深く賛同しました。「免許を受けた酒造業者として良い酒を不自由なく消費者に提供しなければならないという義務」。120年間試行錯
誤を繰り返しながら常にお客様にとっても蔵元にとっても"良い酒"を提供し続ける=サスティナブルに=というのは本当に大変なことです。
ではなぜ良い酒、旨い酒を作り続けることに満足せず研究所を作ったのか? そして建築するに当たって有機空間にこだわったのか?ここのところが非常に興味沸くところです。
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| Q: |
日本酒文化研究所を建てるに至った経緯を教えてください。 |
| A: |
「良
い酒とは?」ということを改めて飲み手側の立場に立って考えたときに、単純に「モノ」がよければそれでいいのかどうか?」と考えました。物質的側面以外
に、面白さ・楽しさ、といった無形の「コト」が 付加されないと本当の意味での「良い酒」ではないのでは?という考えに至りました。
蔵
元として良いモノ・お酒を造ることは当然のことですが、良いのか悪いのか、おいしいのかおいしくないのか、というのはお客様が決めるべきこと。我々は良い
「モノ」は造れるようになったんだけど「コト」作りが非常にヘタで「酒を通して生活が語れるか?」ということについては苦手分野です。従って「モノ」と
「コト」を融合させ日本酒を面白くする、面白いコトづくりを追求する、ということのために設立することになりました。
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| Q: |
その構想はいつ頃から持っていらっしゃったんでしょうか? |
| A: |
話
は現在の会長の代にさかのぼります。会長は私の父ですが、よく若い頃は衝突していました。
会長は、"より美味しいお酒をより多くの皆様に"という考えを強く持った人です。「いつもお客様のそばにある酒でありたい」・・・ こういう考え方で一時
のブランドブームにも乗らずに、お客様にとっての良い酒=顧客合理性を追求し、「近代的な造りの仕組みづくり=選択と集中」を行いました。つまり人がやっ
ても機械がやっても同じ結果しか出ないところには迷わず機械を入れましょう、というようなこと。逆にそれ以外の部分には人間の意志と手も徹底的に入れると
いう、目的と手段を明確に分けたわけです。"酒は情緒や感情だけでは醸せない、発酵工学の世界なんだ"という
そんな会長が 1997,8年頃にふと、「昔みたいな蔵をつくってお客様に見てもらいたいなあ」と言い出しました。
私は考えました。新しく蔵を建てるにあたって、当然ながら「投資であるから収益を創造しうるものでなければならない」という考えを持っていましたから、単
にお客様に公開するだけでは意味がない、と。 戦略的に将来のことを考えれば、研究開発のインフラを持つことは非常に大事です。次の世代にもお酒をたしな
んでいただけるようなモノとコトの研究と開発が出来る施設にしなければ、と強く感じました。研究所には物性的な研究を行う実験蔵と文化的資料や文献を駆使
して研究を行う文化研究室があります。観光バスを入れるような一般公開はしていませんが、お酒、とりわけ日本酒文化に強い興味をお持ちの方は、ご連絡いた
だければ対応させていただきます。
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| Q: |
竣工はいつだったのですか? 昨年法人設立50周年を迎えるにあたって・・・と聞きましたが。 |
| A: |
本当は50周年だから設立した、というのではなくたまたま50周年と言う節目に設立できたわけです。2004年10月23日に、社員・家族みんなを招いて
研究所のお披露目会をやりました。その一週間後には竣工式が控えていました。あろうことか、その日の夕方に新潟県中越地震が起りました。当然竣工式は延
期。結局正式にオープンしたのは半年後の2005年4月です。
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| ミーティングルーム |
貴重な酒貯蔵庫 |
上と下が見渡せるよう設計 |
アップルスノーケーキと書いてあります | |
| ■建築トレーサビリティ |
| Q: |
ココには貴重な文献、漆器、他貴重品がたくさん置いてありますが具体的にはどうやって研究開発されているんでしょうか? |
| A: |
約
8,000冊ある文献や9,000点もの資料から"当時の人々がどのように考えを持ち、生活をしていたか、また酒をたしなんでいたか?"を研究していま
す。これらから考えを学び取り、コトの体系を作り上げて現代に通じる楽しいコト、面白いコト、文化的なコトなどを創造しようと考えています。
器なども古美術品屋ではありませんので欠けていてもいいんです。そこに描かれている柄や色などもコトの開発には非常に役に立ちます。それにしても昔の人々は知恵を出して生活をしていたものですね。資料を見ているとつくづくそう思います。
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| Q: |
設計施工するにあたっては徹底的に有機空間にこだわっていらっしゃるようですが? |
| A: |
わたくしどもは有機純米吟醸酒も造っておりますが、お酒を醸造する蔵には有機JAS規格に則った原料・施設・工程そして管理が要求されます。
(生産、加工、流通にいたるまで農薬、消毒剤などの化学物質による汚染を起こさないこと)
、ということでコトの研究をする日本酒文化研究所にも健康を害するものや環境を侵すものは建築部材に一切使わずに、生産履歴の明確なもののみを使用しました。
例
えばペンキを使えないので蒸留用施設機器はみんなステンレスです。壁は貝殻が入った珪藻土。コンクリートも普通のものは使えず特殊な強度あるコンクリート
を使っています。空間に存在する建材、壁紙などの資材、設備機器、接着剤などすべてにおいて空間を汚染しないように配慮しましょうということなのです。
従ってコストはとてもかかっています(笑)。認証においてはハードルが高いところをお付き合いしたかったので、正確な情報を持っていること、安直な妥協はしないこと、また、海外認証もやっているところ、ということでASAC(エイサック)http://www.npotown.net/home/asac/で認証を取っています。でも一番大切なことは、有機JAS規格の酒が醸せた、とかこのような建物を作った、ということではなく、そこから学び取った有機の思想を共有すること、そして実践してゆくことだと思いますよ。 |
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| ■日本酒需要はなぜダメになってきたのか? |
| Q: |
では最後に日本酒ファンの1人としてお聞きしたいのですが、多くの蔵元が倒産して今の日本は日本酒業界が低迷しています。
その理由をどのように見ておられますか?
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| A: |
2つ原因があるのではないかと思っています。
1
つは酒造免許制度の弊害。既得権が業界をいわば天動説発想にしてしまいました。あわせて、造れば売れる時代が長く続き過ぎましたよね。今は、造っても売れ
ない時代です。天動説発想や日本酒原理主義発想には消費の主役たる「生活者」が不在です。「どういうライフスタイルの人がどんな場面でお酒を飲んでいるん
だろう?」という大切なリサーチやマーケティングの部分を行ってこなかった事は大きい損失だと思います。
もう1つは年
代層、世代への着眼が不在だったこと。とりわけ新人類世代へのPRをしてこなかったことは大きい。新人類と呼ばれた人たちが80年代に誕生し、彼らは既存
の社会の仕組み、縦社会に当てはまらず、自分の考え価値観を大切にし、「個」で動く特性を持っています。縦社会との決別です。一方で日本酒は縦社会で飲み
継がれてきましたから、この世代で寸断されてしまう。結果的に、彼らが30代半ばに達して本来ならば日本酒消費のボリュームゾーンを形成するはずがバラけ
てしまった。それと符合するように、90年台半ばから日本酒の消費は急激に落ち込み始めています。世代の引継ぎがなかったことが、日本酒の低迷と大きく関
係していると思います。その意味で世代へのマーケティングは大変重要です。
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| Q: |
なるほど。どうもありがとうございました。 |
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| ガラスの先は有機空間 |
貴重な酒はチタンで保存 |
貴重な本が揃う書庫 |
手に入らない古文書も |
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| 様々なビンの展示 |
膨大な貴重本ばかり |
膨大なお皿コレクション |
鳩徳利という珍しい徳利 |
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<取材後記>
上下関係、縦社会を象徴する日本酒の呑み方がなくなっていったのと時期を同じくして、日本社会も低迷して行ったのかなあ、と感じました。インターネットの普及で組織と仕事のフラット化が普及してきたことはよかったのか悪かったのか・・・。
日
本酒文化研究所で有機空間を徹底させるために積み重ねられた証明書類は高さ約1Mくらいだったそうです。そこまで徹底して信念を貫いていく企業理念は大い
に勉強させて頂きたいポイントです。高澤社長は言いました。「ぼくは伊勢丹でお客様第一主義を叩き込まれました。」菊水酒造さんの視線がお客様に向いてい
る限りこれからも安全でよい酒を私たちに提供してくれるでしょう。
帰
りのタクシーでは運転手さんが「菊水さんは社員の会合や飲み会をやるときにはみんなにタクシーチケットを配るんですよ。飲んだら絶対に運転させない、とい
う気持ちもそうですがとても社員を大事になさっている会社だと思います」と言っていました。本当に勉強させていただいた1日でした。どうもありがとうござ
いました。これでまた菊水のお酒を買っちゃいそうです^・^
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■取材した人:犬飼俊介
■取材された人: 高澤大介氏、上原裕美さん